できるだけ早い段階から考えてほしいこと

 

毎年、初心者への指導を依頼される。または、中学校までに金管楽器の経験があっても、新たに奏法を見直してもらうこともよくある。

 

○鶏が先か卵が先か

 よく「呼吸法を真っ先に指導します」という方に出くわす。自分はこれと違い、「呼吸は皆ある程度プロ」だと思っている。よほど病気でもない限り、普通の呼吸でもある程度楽器を鳴らすことはできる。それに、究極の目標は「しゃべるように、語るように」吹くこと。大音量のスピーカーになるためではない。事実、リコーダーを吹く程度の息の量で、ホルンは十分に鳴らすことができる。これでも結構うるさいくらいになる。それ以上に息を送り込むとしたら、いったいどういう状態なのだろうか?想像しかねる面がある。

 そこで、自分が初心者に指導する際は、先に説明してしまう。

1 マウスピースの当て方・位置について 上唇の2つの丘にマウスピース内側を「引っ掛ける」。上唇の赤い部分が「ほぼカップに入る」ように。下唇は上唇をリフトしながら支える。
マウスピースなしでバズィングを行い、上下の唇それぞれに指で触れると、上唇に触れたときに振動が止まる。つまり、「リップリード」は主に上唇ということになる。このことからも上の内容はわかりやすい。結果的に、上唇2:下唇1に近い形で上下のバランスがとれる。あまり力を入れてマウスピースを手前に押しつけないように、しかしマウスピースと歯の距離が離れすぎないように。上唇を柔らかくとらえ、下唇は上唇よりもしっかりとした支えで。マウスピースは下唇側でより強く支えるようにする。
2 アンブシュア(唇などの形・セッティング) 上下の唇を合わせ、マウスピースの外側はともにおもに縦方向に伸ばすのが良い。
・上唇:「エ」の形。鼻の下を伸ばすように、口元を歯と歯ぐきにくっつけるように。
・下唇:「オ」の形。下唇の下部からあごの先にかけて、歯・歯ぐき・あごの骨に筋肉がくっつくように。
こうすると、だいたい上下4本の糸切り歯の根本を結んだ四角形の「4つの辺」「2本の対角線」でテンションがかかったような状態になる。
3 アパチュア(息が流れて開く「穴」) 上下の唇は閉じたまま息を流すと、「漏れ出す」ように唇が自然に開き、このときだけ唇が振動して音になる。息の量が減ると、自然に唇は閉じ、音はやむ。このように、アパチュアはあたかも息に応じた「自動ドア」のようだ。穴の形は、オーボエのリードの断面のような形が良いとされている。実際には、この形の「上半分」のようになる。アパチュアの穴の形が振動部分を決定し、音色を決める。このため、美しいアンブシュアとともに美しいアパチュアがつくれるようになるのが理想だ。
4 あごの位置 上下の歯先をそろえ、これらの間をだいたい「人差指の幅」くらいに開くと、ホルンらしい音が出しやすい。もちろん、上下の唇はくっついたまま。あごの関節は耳のあたりにあるので、口を開くと下あごはやや後方に下がる。このため、マウスピースの角度は少しだけ下を向くことになる。低音域に向かうほど、上下の歯の開きは増す。このとき、上下の唇は「くっついたまま」にする。結果として、上下の唇と前歯は若干スライドすることになる。(ものを噛むときと似ている)
5 舌について 1 息をフォーカスする。 「ろうそくを吹き消すように」息をまとめる。このときの「舌の先」と「舌の真ん中やや奥」がちょうど良い高さになる。
2 音程を変化させる。  「口笛を吹くように」、「舌の奥の高さ」を上下に変化させれば、自由に音程が変えられる。どの金管楽器を吹いても、音程は「舌の奥の高さ」で決まる。
3 タンギングを行う。  「舌の先 数mm」のところを上の前歯にくっつけ、勢いよく息を吐けば、明確な発音とともに音が出せる。「子音」の変化でニュアンスは変化する。
6 バズィング 音質をよく聴く。1つの音にも、音の成分が数種類混ざっている。その中の低い音も高い音もバランスよく響いているのが良い状態。

 以上のことを総合して言葉にすると、「吸う口」(=ストローでジュースなどを飲むときの口の形」とよく言われる。もっとも簡単に言えば、「吸う口で吹く」のだ。これらについて、サイズ的に見直せば、すべての金管楽器はもちろん、その他の管楽器、つまり木管楽器でもある程度応用が効く考え方であろう。

 息の出口の形を整えれば、自ずと息の圧力が上がるものだ。このため、わざわざ先に呼吸法の訓練をする必要はないだろう。これは、「無駄な力を使わない」ことにもつながる。上達した後、「音が汚い」場合、無駄な力が入ることで「オーバーブロウ」(吹き過ぎ)の状態となっていることが多い。正しいセッティングができていれば、無駄な力を入れず、より楽に良い音で吹くことができるだろう。

 

○構え

 ホルンは「口から出た息を右手で受け止める楽器」、とよく言われる。左手を上に、右手をやや下に構えた「ファイティング・ポーズ」をとるとだいたい良い形になるかもしれない。

左手 「楽器の手前の面」と「左手のてのひら」が平行な状態で、楽器左側のベル胴を手のひらに載せる。その後、指先をレバーの先に置く。この状態では、各指は軽く曲がっている。
右手 右手の甲をベル内面に滑らせると、ちょうど良い位置で止まる。(第3関節が引っ掛かる感じ)このとき、右手の形は「小さく前ならえ」をしたような状態に近い。(ただし高さは異なる)右手親指と人差指にベルの重さが乗る感じ。右手と左手のバランスで楽器を支える。少し危険だが、「右手を詰めて楽器を斜めに立てることができる位置」も、その人の右手の基本位置と言える。このまま息を入れれば、「ゲシュトップ奏法」が可能、開閉すれば、ハンドストッピングが可能。
首から下 経験のあるホルン奏者の姿勢を見ると、「首から下が少し右を向いた、休めの姿勢」に見える。このまま「首から上」を正面に向ければ良い。このとき、マウスパイプ、左肘、左足がほぼ平行に正面を向く。

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